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2014/03/08

今日は朝7時過ぎの新幹線で岡山を出て、日本英語検定協会主催の「TEAPセミナー in 東京2014」を聴講しに上智大学まで足を運んだ。

日本英語検定協会とは「英検」を主催する団体で、TEAPとは、日本英語検定協会が上智大学などと共同で開発した新しい大学入試英語問題・Test of English for Academic Purposesのことである。既に2015年度から上智大学が定員の一部に対してTEAPを導入することを決定しており、今後の大学入試の趨勢にも影響する可能性があるとも考えられることと、たまたま今日のセミナーでは、Facebookでつながりのある安河内哲也さんが講演をされるということもあり(実は、このセミナーのことは安河内さんの書き込みで知った)、ちょうど休みと重なったので帰省も兼ねて赴くことにした。

昼前に実家に着いて荷物を置き、四谷に向かった。会場は上智大学10号館の大教室。つい一昨日にはここでかのチョムスキー博士も講演をしたという。受付開始直後の13時過ぎに着いて、受付を済ませ教室へ入る。

最初に今日のセミナーの概略の説明と注意事項の説明があり、早速最初の基調講演(以下、講演者の氏名は敬称略)。

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基調講演①:田渕エルガ(文部科学省国際教育家外国語教育推進室室長)
『「グローバル化に向けた英語教育改革実施計画」と大学入試』

文部科学省の職員による、グローバル化に対応した英語教育改革の実施計画、新たな英語教育の目標・内容案、そのための体制整備案、今後のスケジュールなどについての説明。レジュメの中には「日本人としてのアイデンティティに関する教育の充実について:東京でオリンピック・パラリンピックが開催される2020年を一つのターゲットとして、我が国の歴史、伝統文化、国語に関する教育を推進」という内容も含まれていた。
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話を聞いていて思ったのは、「グローバル化」ということばのあいまいさについてである。のちの質疑応答で同じ質問をした人がいたので、ぼくだけではないのだ、と思ったが、そもそも「グローバル化」の定義があいまいで、その不確定なものを根底に置いて議論したところで、不確定な結果しか生まれない。何だかよくわからないけれど、まず「グローバル化」ありき、の議論なのだ(もちろん、これは田渕室長に責任があるわけではない。今に始まったことではないし、グローバル化の定義は難しく、歴史的にも言葉の意味が変化しているのだから)。

また、グローバル化「だから」英語教育の充実、というのもおかしな話で(もちろん、今日のセミナーはあくまでも新しい大学入試英語の話だからそれは本題ではないが)、世界から多様な来客があるとすれば、学校で教えるべきは、①異文化理解の考え方と方法、②英語のみならず多様な外国語であるべきだ。

また、これも重要な大前提なのだが、そもそも日本国内では英語(ここでは、日常会話レベルの英語)は必要ではない。以前から話しているように、「日本人は中学・高校と6年間英語を勉強しているのに話すことすらできない。それは受験英語のせいだ」というよくあるステレオタイプの批判は誤りで、日本人が英語ができない最大の理由は「必要ないから使わない」ために他ならない。英語も言葉である以上、使わなければ忘れてしまう。たかだか週に数時間勉強しても、日常的に使うことがなければ習得できなくても無理はない(ただし、何をもって「習得した」とするかの問題もあるが、これについては後述する)。

田渕室長の講演の内容に、次のようなものがあった。

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国が英語教育推進リーダーを養成して各地域に派遣し、教員に対して指導力研修を行う。教育推進リーダーは、たとえば筑波の研修センターで1週間厳しい研修を受け、各地域の学校で教員を指導して「中核教員」を養成する。その中核教員が各学校で英語指導力研修を行う。
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現状では、各地域の研修センターなどで小学校の担任や中・高等学校の英語科教員の研修指導を行っていて、それではダメだから、ということなのだが、そのどこがどう問題なのかが今一つ理解できなかった。「自治体ごとにバラバラだから、中央でしっかりとした教育推進リーダーを育成して派遣する」ということなのであろうが。

ただ、それでもやはり疑問点は残る。第一に、日常的に英語を必要としない(=英語で過ごす時間が圧倒的に少ない)日本において、グローバル化という不明確な概念のもとで、全ての子どもに英語を徹底的に教えることが果たして意味のあることなのか、ということ。

第二に、「2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に合わせて」という目標にしてもそうだが、「東京中心・霞が関中心」という発想の枠からいい加減に脱却すべきではないか、ということだ。

無論、英語教育の充実を図ることそのものには賛成だ。しかし、その先にどのような人材を育成したいのか、その目標が明確に定まっていない(=「グローバル化に適応した人材」では曖昧すぎる)以上、教育現場、それも、東京などの大都市圏以外の地方の教育現場の迷走ぶりは火を見るより明らかではないだろうか。これがエリート育成教育であればさほど問題はない。だが、地方の偏差値40前後の学校(現在のボリュームゾーンはそのあたり)で、中央の論理が通用するとは到底思えないのだ。

むしろ、そこまで英語教育を徹底させようと思うのであれば、英語を公用語にして、英語を使わなければ生活ができないような状況を作り出してしまえばいい。学校も、大半の授業を全て英語で行い、テレビもラジオも新聞も大半を英語にしてしまえばいい。

手厳しいかもしれないが、地方の予備校や高校で教え、現状を目の当たりにしているだけに、どうしてもこうした苦言を呈したくならざるを得ない。

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基調講演②:吉田研作教授(上智大学言語教育研究センター長)
『TEAPと今後の日本の英語教育』

前半は「日本人の英語力と内向きの日本人~外国語に対する自信のなさ~」というテーマで、複数の統計データを使い、「外国語が苦手だから留学したくない」「英語が必要だとわかってはいるが、英語を使った仕事はしたくない」「海外で働きたいとは思わない」という日本人の姿を浮き彫りにし、そのうえで、一つの解決方法として、Multilingual(いくつもの「母語」が存在する状態。アメリカ的発想) / Plurilingual(必要に応じた言語力が存在する状態。ヨーロッパ的発想)という概念を使い、native speaker並みになろう(=multilingualになろう)とするのではなく、non-nativeの英語に自信を持ち、英米の英語にこだわらずに国際共通語としての英語力を向上させること、という方針を提示した。

中盤は、「学習目標としてのCan-doの意味~言語形態よりも、英語で何ができるか~」というテーマで、国際共通語としての英語力を向上するための指針として、CEFR(Common European Framework of Reference)という到達度指標が紹介され、具体的に英語を使って「何ができるか」を示し、段階的にそれをマスターしていくことについて論じた。

後半は、上智大学の英語教育の取り組みであるCLIL(Content and Language-integrated Learning)を紹介し、それを踏まえて大学入試を作成するという話に踏み込んだ。EFL(English as a Foreign Language)環境の大学で求められる英語力として、①日常会話ではない・②ネイティブ・レベルの英語力でもない・③将来、日本人として、国際社会の中で、世界中の人々と一緒に、世界の平和と繁栄のために貢献できる人材に必要な英語力の育成が必要、という指針を提示した。最後に、TEAP開発の経緯に触れ、TEAPがどのようなレベルの試験で、入学から卒業までの流れの中でどのように位置づけられるかを示した。
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おそらく、吉田教授の講演の中で最も刺激になったのは「non-nativeとしての英語に自信を持つこと」のくだりではなかっただろうか。ある元高校教員がオーストラリアの大学で書いた博士論文に触れ、「日本の高校生に様々なnon-nativeの英語(※文法的には共通の英語)を聞かせたところ、non-nativeの英語を聞く機会の多い生徒は、non-native英語に対するpositive attitudeを持つようになり、みずからが話す英語にも自信を持つようになった」という内容を紹介していたが、これはおそらく、指導する高校教師にもあてはまることだし、実際、学校の授業ですぐにでも使えそうな方法である。

先ほど、何をもって「習得したか」と言えるのかは後述すると述べたが、少なくとも発音に関してはnative speaker並みにならなくとも正確にじぶんの意見を伝えることができたり、Can-doリストに従って段階的にできることを広げていけばいいわけで、CEFRの指標をもとにしたCan-doリストを作ってそれを目標とした教育を行うことは可能だと言える。

もちろん、「発することができない音声は聞き取れない(もしくは聞き取りにくい)」という考え方もある以上、native speakerの音声に近づける努力はしなければならないかもしれないが、speakingについていえば、Japanese Englishだからと卑屈になるのではなく、non-nativeとして堂々と話せばいいだけのことである。実際、質疑応答でも「non-nativeの音声を題材にした教材はありますか」という質問があった。

休憩をはさみ、日本英語検定協会からTEAPの全体像についての説明と、iELTS(アイエルツ:International English Language Testing System)についての説明があった。

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英検発表
『TEAPについて/英検からTEAP、そしてiELTS』

TEAPは、英語の四技能・RLSW(Reading / Listening / Speaking / Writing)について、大学教育で必要とされる英語力を身に着けているかどうかを問うテストである。CEFRレベルの6段階(易A1→C2難)との対応は以下のようになる。

英検(RLSW):3-5級=A1・準2級=A2・2級=B1・準1級=B2・1級=C1(C2=対応なし)
センター試験(RL)=A1~B1
TEAP(RLSW):A2~B2
GTEC for Students(RLW):A1~B2
iELTS(RLSW):B1~C2
TOEFL iBT(RLSW):B1~C1
TOEIC(RLSW):A1~C1

つまり、英検で言えば準2級~準1級にあたるレベルで、かつ、内容的には大学で必要とされるアカデミックな内容について、四技能全てを問うのがTEAPということになる。センター試験では易しすぎるし、四技能を問うことができないが、かといってTOEFL iBTでは難しすぎる。その中間にあたり、四技能を問える試験として大学と共同で開発したものである。speakingについても、従来のような一方通行の面接ではなく、一部のパートでは受験生が面接官にインタビューし、受験生に対話をリードしてもらうという新たな試みを導入する。

2014年度は7月20日・9月20日・12月14日の3回実施。会場は札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡の7都市。7月20日はReadingとListeningのみ。9月20日はWritingを含む入試を東京と名古屋で人数限定で実施、12月14日にSpeakingも含む入試を東京と名古屋で人数限定で実施の予定。

2015年度は上智大学全学部の定員の一部と、立教大学のいくつかの学科の特別入試で導入決定。その他、中央大学では2015年度の特別入試の出願資格として検討中。筑波大学でも四技能のテストとして利用を検討しているという。TEAP連絡協議会(情報交換会)に参加している大学は2013年3月8日現在で56大学(私立46大学・国公立10大学)。

一方、iELTSはケンブリッジ大学が開発した留学用の試験で、TOEFL iBTと同様の目的を持つ(詳細は割愛)。
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TEAP主催団体である日本英語検定協会による試験の説明で、問題のサンプルも配布された。問題は試験終了後に回収予定で、漏えいも禁止されている。その意味では対策が立てにくいかもしれない。

上智大学については、入試問題をすべてTEAPに切り替えるわけではなく、従来型の入試も継続して行う(質疑応答で「赤本は無駄になりますか」という問いが発せられて場内爆笑。それに対して吉田教授から「現行のテストをできるだけ変えないようにして導入する。それぞれの学科の定員の10-20%にTEAPを導入する予定」という回答があった)。

TEAP連絡協議会に参加している大学はミッション系大学が多いようだ。我が母校・明治学院大学も名を連ねていた。

問題を見た印象だが、実のところ、Reading、Listening、Writingについては全体的にそれほど目新しさは感じなかった。

Reading(70分)は、最初に語彙を問う20問の空所補充問題で、これは英検準2~準1級の形式と同じである(内容としても現行の大学入試問題と重なるものが多い)。その後、グラフの読み取り、短文読解、中文読解(いずれも内容一致文選択)と続き、見た目は英検の問題と類似点があった。英文の出典に関して、質問用紙に書いて提出したが読まれることはなかった。時間がなかったのか、公表していないのか?

Listening(50分)では、選択肢がグラフになっているものがあって興味深かった。

Writing(70分)はいわゆる「自由英作文」で、Task Aでは与えられた長文の内容を読んで70語程度で要約する問題、Task Bは2つのグラフと2つの中文を読み、それについて自分の意見を200語程度で書く問題。

そして、Speaking(10分)は、Part 1が受験者の生活に関する質問、Part 2が与えられた設定で受験生が面接官にインタビューするという新しい形式の問題、Part 3が与えられたトピックについてのスピーチ、Part 4が与えられた質問(社会的な話題や学校についての話題)への応答、という構成である。

これらはいずれも、CEFRのCan-doリストをもとに構成されている。つまり、英語を道具として考え、それを使って「何ができるか」を問う試験である。

印象としては「難度の高いセンター試験」というイメージだが、英文の内容が大学生活のことに終始している(一般的な会話などは出題されない)という点で差異化されていると言えよう。

ただ、「アカデミック」ということばからぼくが考えていたものとはかなり異なっていた。

確かに、専門的な内容を問うことはできない(これは現行の入試も同様)し、さまざまな学部・学科の受験生が受験することを考えると当たり障りのない内容(偏りのない内容)にならざるを得ないことは理解できるが、「アカデミック」ということばからぼくが想像していたのはフランスのバカロレアのような問題だったので、いささか拍子抜けした印象は否めない(もっとも、フランスのバカロレアは仮に日本語で出題されたとしても解答が困難な問題なので、それはそれで出題されても受験生は逃げ出してしまうだろう(汗))。

講演のトリは安河内哲也さん。当初のタイトルは『大学入試が変われば英語教育はこう変わる!~今こそ、変えろ!~』であったが、レジュメには『大学入試に外部試験の導入は可能なのか?~試験のレベルと対象言語領域を中心とした考察~』となっていて、実際の講演もそうした内容になっていた。

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講演:安河内哲也
『大学入試に外部試験の導入は可能なのか?~試験のレベルと対象言語領域を中心とした考察~』

学習指導要領解説には英語の四技能の総合的な指導の必要性がうたわれているが、現行の大学入試問題はReadingが大半を占め、Writingは5分の1程度で、Listeningは2%以下であり、Speakingは皆無である。

高校生(中上位校の進学校の生徒)が英語を学ぶ理由はほとんどが大学入試のためであり、四技能の育成には程遠い。四技能のバランスが取れ、形式や難易度が一定していて、測定される言語使用領域が明確な適切な外部試験を導入すれば、学習指導要領に書かれている四技能教育を学校で実現しやすくなる。

①LRSWバランス、②試験のレベル、③各試験のTLU(Target Language Use)ドメイン、④スコアの信頼性、⑤実施形式、という5つの観点から理想的な外部試験を選ぶべき。(TEAPがそれに近いが、安河内さんは必ずしもTEAPをゴリ押しする、というわけではない)。

外部試験で一定以上の成績を収めた場合、「みなし満点」として合否判定に導入すべき。
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安河内さんの講演の途中では気分転換のクイズコーナーもあり、今年の慶應大学法学部の語法問題(agreeの語法)と、東京大学の正誤判別問題が出題された。「正解者にはオリジナルTシャツをプレゼントします!わかった方、手を挙げてください!」とのことであったが、どうもぼくには到底着ることができないサイズだったので断念して手を挙げなかったw

安河内さんがFacebookで「今回からデータ派になります」と書いておられたが、その通り、さまざまな統計データを用いての講演は非常に興味深いものであった。ただ、いくつか気になった点はあった。

第一に、学習指導要領の位置づけである。安河内さんは最初に「学習指導要領には四技能の総合的な指導の必要性がうたわれている」ことを論拠として、①のLRSWバランスにおいて四技能のバランスが取れた試験が重要であることを訴えた。しかしながら、③のTLUにおいては「一般的英語の試験(=日常生活で使用される英語の試験)は指導要領との親和性が高い」と述べ、「アカデミックな試験」と対比していた。だとすれば、「アカデミックな試験」が「指導要領との親和性が低い」ということになるのではないだろうか。どうも、そこが矛盾しているように思えてならなかった。

また、今回は大学入試英語があくまでも対象ではあるので仕方がないのだが、高校生が英語を学ぶ理由の大半が入試のためであるということは、裏を返せばそれだけ受験「以外」の英語の必要性が感じられないからであり、ひいては日常的に英語を学ぶ必要性がない、ということにもなる。

以前から言い続けてきたことだが、英語の学習において「受験英語」が事実上のメインカルチャーとなっているのは、それに対するカウンターカルチャーたる英語学習が存在していないことのあらわれではないだろうか。たとえば、進学校や進学クラスの生徒に対しては「受験のために」という大義名分で英語の勉強をさせることはできても、それ以外の生徒に対してどう英語の学習を展開していくのかは非常に大きな問題となる。実際、実業系のクラスや体育系のクラスを担当する教師からは、そうした問題点を耳にしたことがある。

「わかる」こと、英語が使えるようになることは、確かに楽しい。だが、「勉強」となると途端に楽しくなくなる(笑)。

今回のセミナーのテーマはあくまでも大学受験ではあるけれど、英語教育を考える以上、受験英語以外の英語教育も視野に入れねばならないはずだし、それが基調講演①での田渕室長の話にあった「指導体制の強化」にもつながってくるはずだ。

今回のセミナーは、〈文部科学省による英語教育の体制整備→non-nativeとしての日本人の英語→Can-doの意味→CEFRと大学入試→TEAP→大学入試と外部試験〉という一連の大きな流れが実に巧みに構成されており、とても刺激的だったし、ぼくが普段持っている問題意識を見直す良い機会になり、非常に勉強になった。

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