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2013/10/12

Blink

[1] Malcolm Gladwell http://gladwell.com/ の"Blink" http://www.amazon.co.jp/Blink-Malcolm-Gladwell/dp/0316057908 で紹介されたあるエピソード。女性トロンボーン奏者のアビー・コナントがかつてミュンヘンフィルに応募した時の話。

[2] オーディションの案内状の宛名は"Mr. Abbie Conant"だったが、彼女はそれを単なる誤植だと思ってオーディションに参加した。審査員の中には当時ミュンヘンフィルの音楽監督であった指揮者・チェリビダッケ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%BB%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%93%E3%83%80%E3%83%83%E3%82%B1 もいた。

[3] オーディションは公平性を期すために参加者と審査員の間に仕切り幕が設けられていた。審査員は参加者の素性がわからず純粋に「音」だけで審査をした。チェリビダッケは彼女の演奏を聴き、「あれこそまさに求めていた人物だ!」と絶賛し、それ以外の参加者を不合格とした。

[4] 仕切り幕の向こう側から彼女が姿を現した時、チェリビダッケは "Oh, my God!!"(なんてこった!)と叫んだ。彼はコナントのことを男性と思い込んでいたのだ。だが、時すでに遅し。結局、彼女が第一トロンボーン奏者に選ばれた。

[5] しかし、チェリビダッケは「トロンボーンは男の楽器だ」という固定観念を崩さず、彼女を何の理由もなく第二トロンボーンに格下げする。彼女は自分の演奏に問題があるものと思い1年間必死に練習したが認められず、オケを相手に訴訟を起こした。

[6] オケ側は「彼女にはトロンボーンを吹きこなせる体力がない」「人間的に問題がある」などとあれこれ理由をつけて抵抗したが、悉く論破された。心肺機能の精密検査では彼女は運動選手並みの心肺能力があることが判明したほどだ。こうして彼女は第一トロンボーン奏者に返り咲いた。

[7] しかし、男性の同僚に比べて給料が安かったため、コナントは再び訴訟を起こし、勝訴した。彼女はいわば、仕切り膜に救われたのだ。もしあの幕がなかったら、そもそも女性であるというだけで彼女は不合格になっていたであろうから。

[8] 教育再生会議の言い出した「点数ではなく人間力での評価」は、いわば、「仕切り幕がない状態でコナントに演奏させる」ようなものだと思う。審査員(面接官)の曖昧な「直観=偏見」で判断され、真に実力がある人間を排除する危険性があるのだ。

[9] 人間の知覚ほど不安定で騙されやすいものはない。それはこれまでの数々の実験で明らかになっていることだ。そんな不安定なものを重視して、大学で必要な論理的思考力や基礎知識のない受験生を合格させるというのは、日本の教育にとってマイナス以外の何物でもない。

[10] まして、教育再生会議のメンバーには、下村文科相がねじ込んだ「金で博士号を買ったと噂される人物」もいる。仮にそれが真実ならば、そんな人物を含む会議が日本の教育の将来を左右しかねないのだ。もうこれは教育「再生」ではない。教育「抹殺」会議だ。

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