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2013/07/17

"A nameless couple in heaven and hell"

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ぼくの大切な友人である、作家・小手鞠るいさんの『美しい心臓』(新潮社)読了。この5月に出た、小手鞠さんの最新刊。書き下ろし小説だ。

「願っていたのは、死だった。
 死を願いながら、わたしはあの、短い日々を生きた。」

という書き出しで始まる物語。いわゆる「不倫」を扱った小説である。

主人公は三十代の女性。夫のDVから逃れようとしていた矢先に出会ったのは四十代の妻子ある男(安達)。彼に惹かれ、アパートを借りて半同棲生活が始まる。逢瀬のたびに激しく求めあい、欲望の虜となる「わたし」。

「死んでしまえばいいと思えるほど、好きだった。」
「好きな人の死を願うという感情は、果たして、愛情と呼べるのだろうか。
 呼べはしない、と今のわたしには、わかっている。そんなものは、愛情ではない。」

こんな風に思い込んでしまうほど、「安達」という男にのめりこむ「わたし」。

じつは、読み始めたとき、この「安達」という男がとても軽薄に見えて(男のセリフが関西弁だからというのもあるかもしれないが)、「なぜこんな男にハマったのか?」と不思議に思わざるをえなかった。そこまで「わたし」がのめりこめるほど魅力的な男には見えなかったのだ。

もちろんそれも、小手鞠さんの計算のうちなのであろう。

少なくとも、同世代の男であるぼくの目から見て、正直なところ「安達」という男には魅力を感じられなかった。途中、南米の小国に二人で行く場面があり、そこでテキパキと仕事をこなす「安達」の描写を読むと、少しは「デキる男」なのだなあ、という印象を受けるが、せいぜいそんな程度でしかない。

だが、「わたし」はそんな男にすらドロドロにハマってしまうほど思い込みが激しく、情が深く、欲望が深く、かつ、逃げる場所を探していたのであろう、と思わされる。つまりは、そういうことなのであろう。これが逆に、絵に書いたような、非の打ちどころのないとても魅力的な男であれば、こうは思わされないはずだ。

「わたし」の想いは、やがて狂気を孕みつつ、終息へと向かっていく。この物語の結末をハッピーエンドととらえるべきなのか、バッドエンドととらえるべきなのかはわからない。ただ、「わたし」が何かしらの強さを手に入れたのではないか、と感じたのは確かであった。それはいわば「達観」とでも呼べるかもしれない。

物語は最初から最後まで一貫して「わたし」の視点から展開されている。「わたし」の濃密な感情描写は、時として息苦しさすら感じさせるほどだ。そして、この物語は、小説というよりむしろ、まるで詩のような美しいことばで紡がれている。いかにも小手鞠さんらしい、繊細だけれど力強い、美しいことばで。

小手鞠さんの購読者層はおそらく大半が女性だと思うが、男性にもぜひ読んで欲しいと思う。きっと、いろいろ考えさせられるはずだ。

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コメント

山添玉基様

ニューヨーク州の森から、小手鞠るいです。
山添さん、素敵なブログに素晴らしい記事を書いて下さって、ありがとうございます! 新潮社の本書の担当者が見つけて、送って下さいました。ちなみに、担当者さんは新潮社のツイッターでこのブログについてつぶやいて下さったそうです。
山添さんのご感想、等身大で、「大切な友人」の作品であっても、決して褒めすぎたりしないで(笑)、とてもフェアで真摯で、私の心に響きました。文章を「詩のよう」とおっしゃっていただけて、本当に光栄です。励みになります。そういえば、つい最近、ブログ関係でひどく心を傷つけられる出来事があって、落ち込んでいたのですが、救われました。かさねがさねありがとうございます。
話が前後いたしますが、私のことを「大切な友人」と書いて下さったことも、嬉しかったです。
時間も距離も離れていても、心の近い人こそ、大切な友人ですよね。これからも、いついつまでも、お互いにそのような存在でいたいですね。山添さんのお仕事、アメリカで応援させていただきます。またどこかでお目にかかれますように!

感謝をこめて。
小手鞠るい

小手鞠るい様

コメント、ありがとうございます!お返事が遅くなって申し訳ありません。

担当者様は、ぼくがつぶやいたものをリツイートされたようですね。おそらく、書名か著者名で検索したのだと思います。

「大切な友人」と書いたのは、以前「友人」と書いたら小手鞠さんから「友人じゃなくて愛人でしょ!」とお叱りを受けたのを思い出し(笑)、さりとて「愛人の小手鞠さん」などと大胆なことを書く勇気もなく(苦笑)、「大切な友人」という表現に落ち着いたためです。

複雑な男心をご理解いただければと思います(笑)。

そして「大切な友人」だからこそ余計に、フェアで真摯でなくてはならない、と思うのです。

ブログ関係で心を傷つけられる、というのはひょっとして、酷い書評か中傷か何かだったのでしょうか。ぼくじしん、分野は異なれどことばを生業にしていますし、なにかをことばにするということがどれだけ大変なことかは理解していますから、じぶんの書いたものがいわれもない誹謗中傷に晒されたりすればどれだけ辛いかはよくわかります。

ぼくは、小手鞠さんを直接知っています。そのことは、ブログや他のところでも公言しています。だからこそ、逆に変な依怙贔屓をせず、正当な評価をせねばならないと思うのです。そうでなければ、ぼくの感想を読んだ人から「こいつは友人だからひいきしているのだ」と思われかねませんし、それが小手鞠さんの評価を下げてしまうことにつながるのは本意ではありませんから。

微力ではありますが、ぼくをはじめ、小手鞠さんを支える人もたくさんいます。どうか、元気を出してください。

本当は、本についてもっと思ったことや書きたかったこともありますが、それはまたいつかお目に書かれた時にでも…。

どうか、お元気で。

山添 玉基

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