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2011/07/27

A hasty generalization.

児童虐待についての新聞記事の見出しに「児相の方向性ずれた」と書いてある場合、読者はどう考えるであろうか。

「児童相談所が本来あるべき方向性を見失い、そこからずれてしまった」と考え、「だから、この虐待を防げなかったのは児童相談所のせいだ」ととらえるのがおそらくは普通の反応ではないだろうか。少なくともぼくはそうとらえた。

だが、本文を読んでみると、次のように書かれている。

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岡山・長女監禁死:「児相の方向性ずれた」 北区で第2回児童処遇部会 /岡山

 北区の母親(38)が長女(16)を死亡させたとされる逮捕監禁致死事件で、岡山市こども総合相談所(児童相談所)の対応を検証する市社会福祉審議会の児童処遇部会の第2回会合が20日、北区であった。

 部会長の東條光彦・岡山大大学院教授ら委員5人全員が出席。冒頭以外は非公開だった。東條部会長によると、児相がまとめた長女の記録を小学校時代▽中学2年まで▽市児相が関わった中3・高1--の3時期に分けて質疑で確認した。しかし中学2年までで終わったため中3以降は次回に持ち越された。

 東條部会長は個人的見解として「母親は子育ての面でどう長女をしつけるかをずっと考え、児相も同じようなことを考えた」と説明。だが、母親の思いが行き過ぎて虐待になり「児相の方向性とずれていった。児相や学校などの機関がどう入って調整するのかが難しい」と問題点を指摘した。児相が母親との関係が切れないことを優先して、介入をためらったことについて、「結果的に事件につながった。どこかで見切りをつけてもよかったのでは」と述べた。

 また論議をまとめた報告書について「議論を丁寧にしていくと(市がめどにしている)10月末は難しいと思う。しかし早めにまとめる必要もあり、年内には出したい」と語ったた。次回は8月9日。【江見洋】

毎日新聞 2011年7月21日 地方版

http://mainichi.jp/area/okayama/news/20110721ddlk33040668000c.html
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この第3段落に注目してほしい。

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東條部会長は個人的見解として「母親は子育ての面でどう長女をしつけるかをずっと考え、児相も同じようなことを考えた」と説明。だが、母親の思いが行き過ぎて虐待になり「児相の方向性とずれていった。児相や学校などの機関がどう入って調整するのかが難しい」と問題点を指摘した。児相が母親との関係が切れないことを優先して、介入をためらったことについて、「結果的に事件につながった。どこかで見切りをつけてもよかったのでは」と述べた。
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ここでの主語は「母親の思い」であり、「母親の思いが…児相の方向性とずれていった」と書かれている。

つまり「児相の方向性」が(本来あるべきところから)ずれたのではなく、「母親の思いが」児童相談所の方向性からずれていったということであり、見出しに書かれていることとは全く逆のことなのだ。

本文を読めばこの矛盾にはすぐに気付ける。だが、この記事を携帯電話から見た場合、本文全部を読むには有料版を購読しなければならず、その契約をしていない場合、以下のように見出しと最初の段落しか読むことができない。

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岡山・長女監禁死:「児相の方向性ずれた」 北区で第2回児童処遇部会 /岡山
 北区の母親(38)が長女(16)を死亡させたとされる逮捕監禁致死事件で、岡山市こども総合相談所(児童相談所)の対応を検証する市社会福祉審議会の児童処遇部会の第2回会合が20日、北区であった。
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そうなると、この見出しだけを見て「だから児童相談所が悪い」と短絡的に結論付けられてしまう可能性が極めて高いのだ。

確かに、こうした虐待事件について児童相談所の介入が不十分であったという事例はある。

だが、警察と異なり、逮捕権もなく、立ち入り捜査権も持たない以上、児童相談所の介入には限界がある。また、児童相談所の目的は、子どもを保護することだけでなく、子どもと親が良好な関係を築けるように相談を受けたり、指導を行うことに過ぎない。

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・児童に関する様々な問題について、家庭や学校などからの相談に応じること。
・児童及びその家庭につき、必要な調査並びに医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を行う。
・児童及びその保護者につき、前号の調査又は判定に基づいて必要な指導を行なうこと。
・児童の一時保護を行う。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%90%E7%AB%A5%E7%9B%B8%E8%AB%87%E6%89%80
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まして、虐待の件数(実質の件数並びに通報件数)が年々増加している現状では、職員の対応にも限界があり、かつ、児童相談所側の不備が原因とみられる事件(以下の記事を参照)も起きている。

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未成年者略取:19歳の母親ら、児相から男児連れ去る 職員、人数確認せず--千葉
 児童相談所に侵入し男児(2)を連れ去ったとして、千葉県警柏署は26日、母親で風俗店アルバイトの少女(19)=千葉県成田市=と、交際相手のアルバイト、和泉浩史容疑者(28)=同、仲間の少年3人(いずれも15歳)の計5人を、未成年者略取容疑で逮捕したと発表した。

 逮捕容疑は、今月21日午後11時半~22日午前1時ごろ、千葉県柏市の県柏児童相談所に無施錠の窓から侵入し、1階で寝ていた男児を少女の自宅アパートに連れ去ったとしている。少女と和泉容疑者は「男児と3人で暮らしたかった」と容疑を認めているという。

 柏署や同児相によると、男児は少女の長男。3月下旬、経済的事情などで養育が困難なため、少女が児相に相談。「生活が安定するまで」という条件で4月1日に保護された。少女は計7回面会に訪れ「早く引き取りたい」と申し出ていたという。

 少女らが侵入した21日深夜から22日未明、夜勤職員らが複数回物音を聞き、施設内外を確認したが、子供たちの人数確認などはしなかった。22日午前5時過ぎに男児の不在に気付き、柏署に通報した。

 同児相の西村博行所長は「施錠や子供たちの在室確認など、やるべきことをやっていなかった。警察にもすぐ通報すべきだった」と陳謝した。【斎川瞳】

毎日新聞 2011年7月27日 東京朝刊

http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2011/07/27/20110727ddm041040142000c.html
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しかしながら、一部の瑕疵だけをあげつらって「だから○○全体が駄目だ」という考え方は「早まった一般化の誤謬」である。

もちろん、改善すべき点は改善しなければならないし、児童相談所に関する法的な不備も多々ある。

だが、「早まった一般化の誤謬」に基づく記事、あるいは「早まった一般化の誤謬」を助長するような記事を書くべきではない。

この「児相の方向性ずれた」という見出しは、ともすれば読者を「早まった一般化の誤謬」へと仕向ける恣意的な見出しであるといわざるを得ない。

児童相談所の職員には守秘義務があるから、彼らから積極的に情報を発信することはできないし、自己弁護をすることもできない。仮に「精いっぱいやっています」と主張しても、「まだまだダメだ」「お役所仕事だ」と批判されるだけである。

だが「虐待=児童相談所の対応が不十分だった」という紋切り型(+ある意味、的外れ)の論調を続けていても、児童虐待がなくなるわけではない。

こうした論調は、ともすれば、虐待をしている親の責任から目を背けさせ、「行政のせいにしておけばよい」という依存を助長させるだけである。

児童相談所の置かれた限界と現状をきちんと報道し、どうすれば状況が改善されるのかを議論できる下地を作れるような報道を望む。

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